1000年続くものしか売らない
シャンプーやコンディショナーといった商品は、次々と新しいブランドが登場しては消えていきます。僕たちのプロダクトはそんな短い周期ではなく、100年、1000年と変わらずに受け継がれることを目指しています。流行り廃りに流されず、時間のふるいにかけられても残り続けるものは、使ってくださる方との信頼の形。まさに本物のプロダクトだといえるからです。
ある日、スタッフから「私たちは、何年続く企業、あるいは、ブランドを目指しているのですか?」と質問を受けました。新型コロナウイルスによって先が見えない日々が続いていますが、こういうときだからこそ長期的な視点でこの質問に答えたい。僕たちの未来予想図とブランディングの考え方をお伝えします。
1300年の歴史がある石鹸というプロダクト
P.G.C.D.は、お客様にずっと寄り添える商品づくりとブランディングをしてきた。長年愛され続けている老舗ブランドは日本にも数あるが、そのどれもが今も昔も変わらない信頼の形を築いている。信頼とは、長い時間をかけなければ得られないものだからだ。
僕たちのメインプロダクトである石鹸が生まれたのは、8世紀のヨーロッパだ。驚くべきことに1300年もの長い間、人々に使われ、気の遠くなるような長い時間をかけて受け継がれてきた。
P.G.C.D.が流行に流されず世代を超えて愛される存在になるには、シンプルを突き詰められる素地が必要だった。だから僕たちは、固形石鹸をメインのプロダクトとして選択した。僕たちのブランディングは、企業の枠を超えて、日本という国、さらには未来の子どもたちへ受け継がれる日本文化への証明になると信じている。
日本の「美」を世界に伝えていく
日本には法隆寺など1000年以上前に建てられた建造物が今も残っている。地震や台風が頻発する厳しい立地条件でありながら、昔と変わらずに残る木造建築だ。今も多くの人が訪れ、その美しさに魅了されている。対して、コンクリート製の建物で100年以上存在しているのはまだない。
建築物の壁ひとつ取ってみても、西洋と日本では役割が異なる。西洋の城壁は硬くて強くて頑丈だ。なぜなら、敵から身を守る防壁だったから。しかし日本の壁は違う。最たるところは紙である。障子やふすまが多く音も漏れる。においも、音も、光も、声も通る障子を、日本人は壁だと認識できるが、海外から見れば違和感があるだろう。平安時代には、光源氏が障子の奥にいる人を想像し和歌を詠んだ。その様子はまさしく日本の趣(おもむき)ある美だ。他にも借景などに見られる、広大に見えるように奥にいくにつれて壁が低く縦長の造りになるデザインは、城主の威厳を兵士や領民に伝えるための美へのこだわりだ。
前回の記事『日本人の持つ「美しさ」の感性 』にも書いたが、僕たちは美しさという言葉に日本独自の価値観、思想を持っている。それを企業活動の競争戦略に組み込み、経済活動において日本の美しさを体現し世界へ伝えることが、結果として社会貢献につながるはずだ。
例えばイタリアという国を思い浮かべたとき、フィアットやプラダといったブランドの洗練された美しさを連想する方も多いのではないかと思う。ブランドが作り出したイメージが国全体への印象になる好例だ。様々な企業が経済活動を通して自国の素晴らしさを世界へ伝えており、僕たちがプロダクトというバトンをつなぎながら積み重ねる時間は、次の1000年へとつながっていく。
2050年には、世界人口に対する日本人の割合が1%を切ると言われている。世界の99%の人は日本人に対してどんな印象を持つだろうか。まだ先のことと思われるかもしれないが、僕たちが信じる美しさをもって企業活動をすれば世界中の人がアジアの小さな島国に憧れを抱いてもらえるような価値観を提示できると考えている。いつか訪れる未来で、僕たちの活動が時間を乗り越えて残っていたならば、それが本物であることの証明にもなるだろう。
P.G.C.Dとプロダクトが創る「美」の関係構築
シンプルに研ぎ澄ますことも美しさの側面のひとつだ。化粧品を6~7アイテム使えば、それだけ詰め替え容器などのゴミが増える。シャンプー、リンス、コンディショナーは、洗い流すために3回も4回も多く水を使う。外見の美のために環境問題を助長してしまっては、本来の美とはかけ離れてしまう。
僕たちがつくるものはシンプルだがこだわり抜いた石鹸だ。素肌の美しさを引き出し、髪本来の姿を活かし、いつまでもお客様のそばにあり続けることを目指している。シンプルへの追求が、ゴミを削減し、使う水を減らす。この美しさに共感する方が増えるほど、資源の問題、水不足の問題、マイクロプラスチック問題を解決する推進力になるだろう。これらを根拠として、僕たちの企業活動が、地球全体、社会全体に貢献できると考えている。
ブランドのあり方は、プロダクトを作るだけでは伝えることができない。僕たちの一挙一動がお客様、関係各社、そして社会へ伝わり、信頼が形作られていく。
例えば、お客様からのお問い合わせ対応の丁寧さや商品パッケージの印象づくり、商品を使っていただく効果の保証、お客様へのお手紙――そういった活動は、商品を売るという行為に付随するもので、大量生産、大量消費の時代にはあまり意識されてこなかった。ところが僕たちは、プロダクトを起点に、お客様との出会いからアフターフォローに至るすべてのコミュニケーションをデザインする。その範囲はお客様と会社の関係性を越えて、社会貢献にもつながっていく。お客様と僕たちの構築する時間、プロセス、行動のすべてが意味を持って関連している。
一見、プロダクトと関係がないように見えるかもしれないが、我々としては社会存在意義そのものであり、事業そのものが社会貢献だと信じている。このような取り組みのすべてがお客様との信頼につながっていると感じているし、こうした信頼構築は、1日で成し得ない。だからこそ、僕たちが提供すべきは信頼関係を重ねるための時間に耐えうるプロダクトでなくてはならないのだ。今を生きる僕たちから1000年後の未来に向けて、今日も1歩を踏み出している。
聞き手:栃尾江美
構成協力:ふじねまゆこ