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「人を美しくするものが地球を汚している」矛盾から目指した、石鹸

こんにちは。スキンケアメーカーP.G.C.D.の野田泰平です。

P.G.C.D.の製品は、お客さまに手渡しをするように贈りたくて、オンライン中心の直販だけを行っています。商品と一緒に、驚きや感動を届けたいとも考えています。

そんな僕たちのプロダクトが完成するまでのストーリーを、この「開発ストーリー」マガジンでつづっていきます。

初回は、私たちが自社製品である石鹸への強いこだわりを持つようになった原点について。

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人を美しくする化粧品が地球を汚しているという矛盾

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「人を美しくする化粧品が琵琶湖を、そして地球を汚している」。この事実を知ったのは、僕が中学生のときだった。

授業で、自分たちの生まれた年に社会はどんなことが起きていたかを調べる課題が出た。

1979年生まれの僕が、過去のいろいろなニュースを調べるなかで引っかかったのは、【せっけん運動】。

この運動がきっかけとなり、1979年の「滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例(通称・琵琶湖条例)可決」につながったという報道だった。

日本最大の面積と貯水量を誇る琵琶湖の水質が、高度経済成長期以降、工場排水や生活排水が流れ込むことで悪化したそうだ。

条例成立の2年前には、琵琶湖に赤潮(あかしお)が異常発生したことから社会問題にもなり、工場排水だけではなく、合成洗剤や化粧品などで汚染される家庭用排水も問題視されこの運動が、滋賀県全域で起こったという。

化粧品がなぜ、水質を汚染してしまうのか。

それは、化粧品のほとんどが油分を多く含んでいるから。そして、お化粧をした肌の汚れを落とすときは、油分を含んだクレンジングで融和させているから。少量といえ、毎日てんぷら油を排水に流しているのと同じことをしているわけだ。

一連のこの社会問題を知ったとき、ショックというか怒りさえ覚えた。「人を美しくする化粧品が地球を汚している」という矛盾。

今でも、その強烈な怒りの感情ははっきりと残っている。化粧品業界は、社会的責任の意識が欠けているとも思ったし、「人も地球も本当にナチュラルなもので美しくしたい」と、僕が1つの想いを抱くきっかけになった。

そして、ある記憶を思い起こさせもした。the Body Shop(ボディショップ)の創業者であるアニータ・ロディックだ。

ボディショップの女性創業者・アニータ・ロディックから影響

小学生のころからよく父に連れられてニューヨークに住む父の友人宅に遊びに行っていた。その彼から、ウーマン・リブ(女性解放運動)をはじめ、当時の日本では浸透していなかった価値観をたくさん学んだ。

イギリスに本社を置く化粧品メーカー・the Body Shop(ボディショップ)の創業者であるアニータ・ロディックの『BODY AND SOUL―ボディショップの挑戦』という本も彼から教わった。

アニータ・ロディックの経営理念は、「生き方や社会的な貢献とビジネスは両立すべきである」ということ。彼女は世界中で支持され、今も環境にやさしい起業家の先駆けとして語られる存在だ。

理念はもちろんのこと、『BODY AND SOUL』の中に書かれてあったことが印象に残っていた。

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「私は美容ビジネスが嫌いです。とうてい叶わない夢を売る化物のような業界です。嘘はつく。騙す。女性を食い物にする業界です。その主な売り物は何かといえば、パッケージという名のごみです」(『BODY AND SOUL―ボディショップの挑戦』より引用)

彼女は、化粧品メーカーの代表という立場で、自らも身を置く美容ビジネスのありかたを「卑劣だ」とこき下ろしていたのだ。

彼女は、イギリスの、イタリア移民の家庭で育った。大学卒業後は教鞭をとりながらジュネーブの国連でも働き、アフリカ、アジア、オーストラリアと世界各国を旅した。

多様な世界に身を置いたことで、ある疑問を抱いたという。

「経済的には自分たちのほうが豊かであるのに、なぜアフリカの人たちの肌のほうがきれいなんだろう」と。

そこから、「美容とは何か」「化粧品とは何か」と、環境にも人にもやさしい製品をモットーにthe Body Shopの第1号店を立ち上げることになる。

『BODY AND SOUL―ボディショップの挑戦』は、今も僕にとって経営のバイブルであり、P.G.C.D.が石鹸に強いこだわりを持つようになった原点の1つだ。

the Body Shopはその後大手化粧品メーカーに買収され、創業者であるアニータ・ロディックのスピリットも失われてしまったと思っている……。

肌にほんとうに必要なものしかいらない。当たり前を突き詰める

人間の皮膚が唯一自分の力でできないことは、「肌の上の汚れを落とすこと」。これだけだ。

肌の汚れさえ落としてあげれば、それ以外のことは、本来の肌は自分で生きていくことができる。

美容の本質とは、「洗うこと」。それもこすらず泡で落とすことが重要だ。僕はそこに最大限にこだわり、世界一の石鹸づくりを始めた。

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ひとたび水に浸せば凝縮された成分が目覚め出し、泡を立てれば最高の状態で成分が花開く。そんな石鹸を開発しようと目指した。

しかし、定番プロダクトである朝用と夜用のスキンケアソープの2つにはじまり、その他の商品の製品化までの道のりは簡単ではなかった。

特にスカルプケアソープ「サボン モーヴ」は、ポンプ式の液体シャンプーやコンディショナーにするほうがどれだけつくりやすく、売りやすかったことか……。

だけれども、少し前に琵琶湖を訪れ、美しさを取り戻している姿を前にしたとき、自分たちの選択は間違っていなかったと思えた。

「人も地球も本当にナチュラルなもので美しくしたい」という当初の志は、変わるどころかより強くなってもいる。

使い捨て容器を必要とせず、使いきれば最後は消えてなくなる、地球に負担のない石鹸。丁寧に泡立てるほど濃密で、天然の成分が凝縮された泡が毎日でき上がり、使う人の肌を育てる石鹸。

この2つを両立させ、地球と人を美しくする石鹸にたどりつけたことに感謝している。

一方で、海洋プラスチックによる海洋汚染は地球規模で広がっている。なかでも化粧品にも使われている大きさが5㎜以下のプラスチックのかけら(マイクロプラスチック)は一見美しい海にも漂っていて、海洋生物や人間への影響が懸念されている。

「人も地球も美しく」というP.G.C.D.のテーマは、まだまだ道半ばなのだ。


(次回に続く)

次回は、11カ国で試作品をつくるところからはじまった『最高の石鹸』づくりのお話。お楽しみに!

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野田泰平(のだ・たいへい)

JBIGの代表取締役CEO。スキンケアメーカー「P.G.C.D.」の代表も務める。1979年生まれ。事業を通じて「日々の習慣をデザインして、美しくなる生活に貢献すること」を実現している。

聞き手・構成協力:平山ゆりの



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