【コレクターが語る!】「インテリアアート」と「現代アート」の見分け方
【ART PROJECT with P.G.C.D.特別企画】
古賀 徹×P.G.C.D.代表 野田 泰平[パート1]
アートを通して自分の美的価値観を発見し、新しい自分に出会う『ART PROJECT with P.G.C.D.』。
2023年5月1日より、JBIG meets Art galleryではP.G.C.D.代表 野田泰平が所有するアート作品を展示したコレクション展を開催。
開始に先立ち、展示作品をバックに、起業家でありアートコレクターでもある古賀徹氏と野田による対談が行われました。
起業家・アートコレクターという共通点のある2人が、アートやアーティストと触れ合うことで培ってきたそれぞれの作品の見方や楽しみ方などについて語り合います。
コレクターになるきっかけの作品は?
野田 泰平(以下、野田)
今日はMaison de P.G.C.D.の「アート」というテーマで、古賀徹さんをお招きしています。
もともと古賀さんと僕はEOという経営者団体で知り合いまして、「アートを学ぶ」というテーマの中で、アートを一緒に買い始めた仲間うちのグループのメンバーでもあり、普段は「こがっち」と呼ばせてもらっています。
「アートは難しいよね」や「アートの買い方がわかりません」っていう声が、僕の身近なところやP.G.C.D.のお客様たちからの話でも聞こえてきまして。
今日皆さんに伝えていきたいのが、アートを難しく考えるのではなくて、自分の美学であったり、一言「好き嫌い」でもいいので、もっと身近なものに感じてもらいながら、生活を豊かにしてもらえたらと思い、今日は色々なお話を聞かせていただきたくて、この場を準備させてもらいました。よろしくお願いいたします。
せっかくなので、古賀さんから自己紹介をお願いできますか。
古賀 徹(以下、古賀)
はい。2008年にMEJという会社を創業しまして。通信販売にて健康食品メーカーをやっておりました。その後15年程会社を経営していたんですけれども、2019年に会社をM&Aさせていただきまして、ユーグレナグループ子会社になりました。そこで4年近く働かせていただきまして、つい先日になりますが2023年3月に退任を致しまして、今本当にフリーの状況になったというかたちです。
野田
ありがとうございます。
早速お聞きしたいのですが、古賀さんがアートを買った1作目って誰の作品でしたか?
古賀
大庭 大介さんの「M」という作品です。
たまたま銀座の証券会社のサロンに行った時に、「山(MOUNT)」という大庭さんの初期の頃の作品がありまして。パール塗料が使われた抽象的な作品なんですけれど、それを見た時にすごく感動しました。
それまでは、アートはニューヨークに行って路上で売っているものを買うとか、インテリアショップに行って、なんか面白いなと思ってポートレートを買うとか、そのくらいだったんです。だから誰の何の作品とか、どういう意味があるかとかではなく、ただおしゃれだな思って見ている程度だったんですね。
それで、その作品を見て欲しいなあと思って、証券会社の方に「これ買えないですか?」と言ったら「これは売りものではないのでお売りできないんです」って言われまして。
僕の友人で現代アートに詳しい人がいたので、作品の写真を送って「この作品を買いたいんですけど、どうすればいいですか?」と言ったら、「ギャラリーに行けば買えるから紹介するよ」と教えてもらって。それが一番最初ですね。
野田
それは何年前ぐらいですか?
古賀
ちょうど3年前ぐらいですね。ちょうど新居に飾るアートを探していたんです。
野田
その後からの、アートに関わっていくリズムが早いですよね。
古賀
そうですね。周りにすごいコレクターの方がたくさんいるので。
作品を選ぶポイントは?人生に影響を与えた作品との出会い
野田
このJBIG meets Art galleryでは、先月(2023年3月)までは大和美緒さんの個展を開催していましたが、今月(4月)から6月下旬まで、僕のコレクション展を開催するんです。
「お花とお軸」をテーマにして今回やらせていただくのですが、ギャラリーの1階フロアは花をベースにした作品で、地下のフロアは掛け軸をテーマにした作品を飾っています。
アートってその空間にずっと置いていることもありますけど、作品を掛け変えたりする楽しみ方もありますよね。
この空間の雰囲気もそうですし、座っているだけで、自分の気持ちがアートによって引き寄せられたり、日々の自分の心の忙しさでアートを見る雰囲気が変わったり、受ける印象が変わったりとか、 いろんなことを教えてくれるなと思っているんです。
古賀さんは、家にこういったと壁があるところに、アートをたくさん飾られていったと思うんですけど、どういうテーマでアートを選んでいくんですか?
古賀
最初は何もわかっていなかったですね。作品を見て、ただ「いいな」「おしゃれだな」という買い方でしかなかったんですけれども、アーティストと会う機会が増えて、大庭 大介さんの作品もコレクションをさせていただいておりましたし、名和 晃平さんコレクションさせていただいて、一緒に食事に行った時に、絵に関する視覚以外の情報をたくさん知りまして。 そこからですね。そこからは全くアートの見方が変わりました。
野田
なるほど。
もう少し具体例も含めて詳しく教えてもらえますか。
古賀
例えば、名和 晃平さんの代表的な作品で「PixCell(ピクセル)」というものがあります。
これはPCの画面に現れるイメージ(Pixel)をインターネットを介して収集し、モチーフをまるごとビーズによって立体物を覆っている作品なのですが、その作品自体は存在をしているが、触れることができないということで、そのデジタルの中にあるような状況の延長上、現実のインターネットとかそうなんですけど、そういったものと比喩されていたり。その感覚っていうのが、アートを通じての問いかけですね。
今、実際の社会はどうなんだっていうところにかけて、そういう作品を通じて自分の感じる深さが、ただ「いいな」と思って買ったときと、やっぱりコンセプトや思想や哲学みたいなものを知った上でその作品と相対すると、全然違う印象を持っていまして。
今はもうコレクションしているベースにあるものは、「自分の人生を変えるぐらい影響を与えるような作品のコレクションしたい」というものです。本当にショックを受けるような。最初の頃は、「おしゃれだな」「これ部屋にあったらいいな」 くらいしかなかったんですが、今は明確なコンセプトであったり、表面的じゃない深いところを読み取って、ダヴィンチコードみたいな。そこにある情報とか、自分に相対しながら、自分の人生に影響与えてくださっているものをコレクションしてる感じですね。
野田
ちなみに、その自分の人生に影響を与えた作品についてもう少し教えてもらえますか。
古賀
色々ありますが、小林 正人さん。
小林さんはアーティストって呼ばれてるんですけど、僕の中では「画家」という印象なんです。
彼の中の美意識、美しいと思うものをとにかく追求した結果になると、そこにある技法とか素材とかモチーフとかっていうのは後からできた方ではあるんですけど、やっぱりその彼のその作品を生み出した瞬間とか、その美意識を追求してやっていて、それがパッと見は手で書いてキャンバスを貼りながらすごい激しい作品なんですけど、実際はすごく繊細で、これ以上手を触れるところがないと言うぐらいまでやり続けて、何ヶ月もかけて描いていらっしゃる。そういうその美意識っていうのは、自分の中でどれだけあるんだろうと、めちゃくちゃ問いかけを受けるってなった時に、それをコレクションさせていただいてるおかげで、自分の物の見方が変わってきて、すごく勉強したいなって。
現代アートの醍醐味「スタジオビジット」の魅力とは?
野田
古賀さんは、実際にスタジオ(アトリエ)に行かれて、アーティストが作家活動されているのも実際にご覧になっているんですか。
古賀
そうですね。親交のある方とは、スタジオビジット(アトリエ訪問)をして、作品が生み出されている現場の空気感や、生まれる瞬間についてお話させていただいています。現代アートならではですね。
野田
確かに、そこに生きている人がいるからできることですよね。
僕も現代アートの楽しみ方でよくお伝えしているのですが、アーティストの方が存命している分、「過去・現在・未来」があって、過去の動作で今どうなってるのか?さらに未来がどうなるのか?というものがありますよね。
例えば、数年前に買ったアーティストさんの作品だと、アーティストさんがこの数年間で変化を遂げて、今はまた全然違う絵になっている、もしくはこの絵がここういうふうに変わってきたんだと見ることができるし、そうすると未来がどうなるのか楽しみになるとか。そのアーティストさんの変化を含めて、現代アートの楽しみ方だと思いますし、僕もスタジオビジットがすごい好きなんですよ。
空間が変わる「アートのある暮らし」
野田
古賀さんが先程言っていた「人生に影響を与えてくれてるようなもの」というのがすごい表現だと思ってるんですけど、「アートのある暮らし」の中で、日々感じる影響であったり、もしくは瞬間的に感じるものがあったら教えてください。
古賀
まずベースにあるのは僕の実家が彫刻家の家系でして。祖父、父親とやってきて、僕は継がなかったんですけど、家に工房があって、作品にまみれたとか、本当日常的に触れている家でした。
今の自分になってから、そういう彫刻との関わりは全くないんですが、アートをコレクションするようになってから、やっぱり根源にそういったものがあって、美しいものや、何か生み出すとかって、すごく原体験として大きいんだなって、コレクション続けている中で感じます。
野田
古賀さんが家にアートがあることで、日々影響を受けていることがあるのか、であったりとか、もしくはそのアートがあることによって、自分の暮らしが豊かになっていると感じる時があるのかなど、「アートがある暮らし」っていうのがどういうものなのかっていうのを古賀さんの言葉で表現してください。
古賀
細かく言うと、現代アートと、いわゆるインテリア的なアートとは、ちょっとまた違う世界なので、現代アートとして捉えてお話しますね。
日々過ごす家やオフィスの中でふとした時に、やっぱりアートがあるとないのでは全然違うかなと思っていまして。どういった時に影響があるのかなって、具体的なのはないんですけども、やっぱり何もない場所とアートがある場所では、空間であって全然違うなと思っています。これは視覚的要素なのかちょっとわからないんですが、やっぱりあるとないとでは違う生活、人生なんじゃないかなと。
100から101へ。「インテリアアート」と「現代アート」の見分け方
野田
今、インテリアアートと現代アートを区別して話されていましたけど、どういうふうに分けているんですか?
古賀
現代アートは、美術史ですとか歴史・文化など色々なものの上に成り立っていて、インテリアアートというのは、ひらたく言うとファッションのような、おしゃれとか、かっこいいとか、すごくシンプルな表現だと思うので。そこの文脈をしっかり作っているのかですかね。
野田
そうなんですよね。
現代アートに深く入ろうとすると、文脈であったり、なぜこのテーマなのか、だったり、なぜこの書き方であったりとか、色々な「なぜ」が出てくる部分があって。そこをアーティストさんに聞くと、より深くその作品に至る過程であったり、作品が生まれた背景が僕は知れるのが面白いなと。
そう思う一方で、逆に「文脈とかじゃないんだ」みたいなことを言われる部分もあったりして。それを探しながら現代アートを見ようとしてる僕からすると、急にそこのはしごが外れると「どうやって見たらいいんだっけ」みたいな。自分で解釈していかなきゃならないとなると、情報量とか知識量が足らなくなったりするのかなと思ったりもする。
結構、現代アートの「文脈」の話って面白いようで複雑だと思うんですけど。古賀さんはどういう風に感じでいますか?
古賀
そうですね。
やっぱり僕も最初は全く理解していなかったので、ただ見た目でコレクションを見ていたんですけど、文脈を[香中1] 意識するようになってからは見方が全然変わってきましたね。
その絵がどうやって描かれていて、どういう歴史があってその絵が成り立っていると考えると、やっぱり美術史がベース。100あったとして、その101を作ってるっていうのが現代アートだと思うんですけど、その文脈は人それぞれあると思うんですね。
「自分はコンセプトがないって文脈だ」っていう人もいると思うし、色々あると思うんです。 そこですごく大事だなと思っているのが、現代『アート』という言葉としてはカタカナなんですけども、やっぱり英語の『Art』になってるっていうのはすごく大事。
全世界の同じ人類の中で、その人にしか書けない、その時代の者に今この瞬間に産み出されるものっていうのが現代アートなんだと思っています。それを表現するのは、カタカナで書くと「コンテンポラリーアート(contemporary art)」っていう英語なんですけど、それが前提とされているのが、現代アートだと私は思っていますので、それをただ『アート』とするとファッション的なインテリアも含まれてしまうんで難しいところですね。文脈をもっている作家さんかどうかっていうのは大事にみてますね。
野田
なるほど。
その美術とか芸術のような言葉を作ったのが、日本のおかしな文化みたいなね。そうじゃないんだ、アートというものは。でも確かにその通りですね。
100の流れの中の次の101を作るのもそうだし、その人しか作れないアートいうものの一歩を踏み出そうとしているのが現代アート。そこが次の102、103に繋がるとか、それともそこが繋がらないのか?でも、その文脈が続いてくか続かないかもなんかアートの中にあるんだろうし、みんながトップランナーでありながら、その次に続いていくような文脈を生み出せるか、というのもアートの奥深さだし、そのトップランナーの人たちが日々そこに緊張感とともに産み出されている最先端の部分があるのかなって思います。
古賀
そう思います。
現代はSNSが普及しすぎたせいで、模倣されて「あの絵は俺が先に描いた」となったり、真似されたのが先に売れちゃって、先に描いていたものが模倣したと思われてしまうことが起こったりしている中で、すごくやりづらいと思うんです。
でも本当にそれでも自分の絵を書きつづけた人っていうのが残っていると思いますし、やっぱりオリジナルしか残れない世界だと思います。
これは本当に我々起業家よりも難しいと思っています。起業家は、例えばですけど、全く同じビジネスでも全然成り立つんですけど、それをアーティストで考えるとコピーだと見られてしまう。すごく難しい、難易度の高い世界にいらっしゃるんですよね。
野田
そうですね。色々なお話をありがとうございます。
次回のパート2では、企業家とアーティストの関係などをお伺いしてきます。