ミヤケマイ氏に聞く!東洋と西洋の美術の世界
Respect the Artist ミヤケマイ×P.G.C.D.代表 野田 泰平[トークセッション アフターレポート]
先日、現在開催中のミヤケマイ氏の個展「ハクチョウの唄」にて、トークセッションイベントを実施いたしました!
テーマは「東洋と西洋の美について」。日本とフランスのハイブリッドブランドP.G.C.D.にて「美」を発信する代表 野田 泰平が、日本と西洋の美をクロスオーバーさせるミヤケマイ氏にじっくりと日本美術の魅力を伺いました。
60分以上にわたるお話の中から、印象的だった内容をピックアップしてご紹介。それぞれの美術をボクシングとK-1に例えたミヤケ氏らしいお話にも注目です!
ミヤケマイ氏とのご縁のきっかけ。JBIG meets Art galleryについて。
野田
株式会社ペー・ジェー・セー・デー・ジャパン代表の野田泰平と申します。
P.G.C.D.という固形石鹸を中心としたスキンケアブランドを展開しているのですが、このJBIG meets Art galleryをつくったのには、きっかけがございまして。
ミヤケさんと僕をつないでくださったのもその方であるんです。
現代美術家の椿昇さんと言いまして、京都芸術大学で教授をされています。
その椿先生が、僕が所属している経営者団体EOの東京支部に来られて、アートの講演をしてくださいました。
その時に「ぜひ学生のアートを買いに来て」ということで、「アートを売買する事業をやりたいんだ」という話を9年ぐらい前に持ってきてくださいました。
僕たちのお客様にアートの話をすると「アートを買うのが怖い」とおっしゃることがあります。おそらく、バブル期にアート作品の値段がすごく上がって、今となったらそんな値段では全く売れなくて。どちらかというとテレビのなんでも鑑定団の「一十百千…残念!」みたいな。そんな株を買うみたいな変なマインドができてしまっているようで。
なにか若手アーティストを応援できるような場所はないだろうかと思い、このギャラリーを作りました。
ギャラリーでは、夏はミヤケ先生のような日本をリードしている方たちの個展を、年明けにはニュースターのような形で、若手で卒業したばかりの方たちの個展をやらせていただいています。
それと、今回のミヤケさんの作品を、アートパッケージとして、弊社の石鹸のパッケージにさせていただいています。個展に来られなくても、うちの商品が届いた時にアートに触れてもらって、何か感じてもらって。それがお客様の心の琴線に触れるような感動であったり、気づきであったり、なにか考える時間をアートと共に提供できたらと思っています。
今後は、若手アーティストの作品をECでも販売できるよう準備していて、直接若手のアーティストにお金が流れていけるような仕組みも作ろうとしています。
そのような想いとご縁から、今回はミヤケさんに個展を開いていただいて、ありがとうございます。
ミヤケ
ありがとうございます。いつも私は個展は料理みたいだって思うんです。
すごい下ごしらえとか買い出しとか全部時間がかかるのに食べるのは5分とか10分だったりするのに似てる気がします。
今の日本のギャラリー事情は、回転を多くしてたくさん売りたいっていう感じが多く、1週間とか非常に短い会期が設定されています。
私は美術館で展示をよくさせていただいて、そうすると3か月とか1か月と余裕があるのですが。本当に1週間や2週間だと、行きたくてもちょっと病気になったり、何かがあったらもう絶対行けなくなって悲しい気持ちにいつもなります。
作家は一年かけて用意してても、なかなか届けたい人に届けられないっていう現状があって。 三か月という太っ腹の会期を切ってもらえるのは、すごくありがたいことだなと思います。
ミヤケマイ氏が想うアートの役割
ミヤケ
さきほど野田さんがおっしゃったバブル期にアートを買って失敗した人たちで、なんか株とアートは怖いからやめとけみたいな話があったので、面白いなあと思って聞いていたんです。
そもそも、美術とか芸術が何のためにあるのかって、一度皆さん考えていただけるといいのかなと思うんですけど、社会の中でいろんなルールや物差しがありますよね。好き嫌いを別として、どうしてもそこに添えないとか、そこに合致できない人間の持っている曖昧なものとか、各自持っているどこにもはまらない不定形のものを受け止めるのが、私は芸術とか美術の世界だと思ってるんです。
そもそもの正解がないという大前提で、正解がない中、どうやって居場所とか救済とか、喜びを見出して行くかのために、私は美術や芸術があると思っているので、アートを買って痛い目にあったって仰っている方は、多分好きでもない絵を投機目的で買って上がるだろうと思ったら上がらなくて損したみたいな感じなのかなと…。
どれだけ自分がそれと一緒に生活したいか、好きかっていうことが重要で。結婚とかと一緒でお金持ちで背が高くてとかいうので選ぶと失敗するのと一緒で、その人と本当に生活していて楽しいのかということの方が重要だと私は思います。
本日のメインテーマ「東洋と西洋の美について」
日本美術の海外への影響は?
野田
今回ミヤケさんに個展の依頼をした背景の中に、ミヤケさんの作品を通じて、日本とヨーロッパのアートをクロスオーバーされているような文脈や美しさっていうものを感じまして。
ヨーロッパに留学されていたご経験もあり、話を伺ってすごく面白かったので、今日はパネルも用意していて、日本と西洋のアートがどうクロスオーバーして今の時代に移ってきているのかを伺えたらなと思っています。
ミヤケ
今日ご紹介いただいたときに「日本美術の文脈を組んだミヤケマイさん」と言われたんですけど、私は全然文脈派ではなく、ものすごい女性的な作家で。直感みたいなところで、後付けで勉強をする感じで、私の勘は正しかったなあっていうのを検証するぐらいなので、非常に不勉強なので、そう言っていただくとちょっと困ったなあっていうのはあるんですけど。
今の現代美術は実際のところ、日本が西洋に与えた影響は全く考えてないですし、文脈的にも上がってこないです。日本美術の人たちの中でもあまりそれを重要視して来ていないというか、非常に西洋の美術の大御所とか、いろんなムーブメントに日本美術っていうのが影響してるのに、日本の文化の国策がひどいので、日本は美術に関して、ちゃんとそれを日本が保有することができなかったっていうことがあると思います。
むしろ西洋画がどう日本美術に影響したかっていうのは、すごく教科書にも出てきますし、例えば黒田清輝がやっぱり向こうの影響を受けたとか、熱心にリサーチしています。
まあ、戦争に負けると教科書が書き換えられるので、やっぱり国粋的な日本偉いとか日本が影響したみたいなことをやってこなかったっていうのもありますし。
その前から日本は島国なので、海外のことはそんなに地続きのヨーロッパとかと違って敏感ではないので、あまり気にしていない、割とおおらかな感じがします。
西洋はそういうのをプラットフォーム化して、自分たちの利権にすることが上手ですけど日本の人たちはそういうことをしないで、いいとこを西洋に持っていかれても「まあいいか、国内で私たち楽しく過ごしていれば」みたいなおおらかさがあって、こういう風になっているかもと思います。
野田
ちなみに例えば、狩野派、琳派みたいなこの時代の作品たちが、そのまま海外に輸出されて、当時のアーティストさん達に好影響を与えたという話を聞いたんですけど…。
ミヤケ
狩野派、琳派が作ったものが海外に出て行くのはその後になって、1878年のパリ万博の時ですね。初めて海外にオフィシャルに国を挙げて日本の美術品工芸品っていうのが出て行った時期で。それ以前とそれ以降っていうのはだいぶ違いますね。
あともう一つは明治維新の時。結局日本の人たちが日本のものを捨てて洋服に移行する洋風の生活になった時に、捨てられた日本の美術品や生活用品がどこに行ったかっていう。もちろん、廃棄されてしまったものもたくさんあるんですけど、海外のそういう画商さんがゴソッとただ同然で持ってって、海外で売ってひと財産築いたこの2つのフェーズが、やっぱり大量に日本のものが海外に出て、多くの人の目に触れるっていう機会にはなったのではないかと推察いたします。
野田
有田焼の青の色が、ロイヤルコペンハーゲンに影響を与えたという話も聞いたのですが。
ミヤケ
そうですね。工芸品はもうちょっと早いですね。輸出産業として。
ただ、まあ中国に比べると日本の有田とか焼き物が与えた影響はやっぱりまだ小さいんですよね。陶器の国、磁器の国って言われてるのは「ボーンチャイナ」ってそのまま言われているぐらい中国なんです。
ここがちょっと日本の海外における影響っていう時に読むのが難しくて。彼ら(西洋の人たち)からしてみると中国と日本の分化ができてる人たちがどれ位いたかというと、大変難しいところがあって。だから、いわゆるエキゾチックな東洋趣味って言われるシノワズリって言われる言葉があるんですけど、その中に日本も入ってしまっているというのがありますね。
だから、陶器やと磁器はやっぱり中国はものすごい量と、ものすごい精度の高いものをもうだいぶ前からやっていて、日本も有田とか、白薩摩とかいくつか出ているものがあるんですけど、もともと磁器が弱いので。
西洋は磁器の国なんで土ものが扱えないんですね。脆いし、弱いっていうこととやっぱりあのシンメトリーでない感じがちょっと受け入れにくかったと思います。
その点、シンメトリーで美しいっていう西洋の美的感覚と中国の美意識は一致してるんですよ。それに比べて日本は常になんか弱者的な、こうちょっと変とか、ちょっと弱いとかちょっと詫びてる感じとかがいいよと独自ではあります。
そういう美意識っていうのは、日本は脈々とあって、あんまり西洋とは一致しないっていう点があったので、輸出はしていたけれども、それはただ中国の磁器やなんかと同じところに入れたものだけが影響してきたような気が私はします。
日本の「美」の特徴は?
野田
実は、僕はもともと建築デザインをやっていまして。
建築家の伊東豊雄さんの事務所で、インターンを4年間ぐらいやっていて、その後、桑澤デザイン研究所の学長をされていた内田繁先生にも従事させてもらいました。
その内田先生の著書の中で「弱さの美」や「弱さのデザイン」という話があって。揺らぎとかかすれとか、休みなどは、日本の文化だって。白黒をはっきりつけるのが西洋、特にアメリカ中心の文化。日本は、軒下は内なのか外なのかとか、グレーなところに日本の文化があって、「内でも外でもないところに日本の余白のデザインがある」という話をされていて。僕、そういう言葉がすごい好きなんです。
この前、東京現代(日本の国際アートフェア)に行った際に、中国っぽい絵がたくさんありました。買われる人の多さとかも、もちろんあるんでしょうけれど。
日本らしさというか、クロスオーバーしてきている西洋と日本の文脈の中で、現代としての日本と、ミックスカルチャーの中でのアートみたいなのが、どういう風に向かって行くのかという方向性が見えないと感じたんですけど。ミヤケさんからするとどうですか?
ミヤケ
美術館は文脈、文脈、文脈。文脈に乗れなかったら負けみたいな。
それで、商売する人たちも文脈にのせたい。美術館も文脈にのせたい。それにアーティストが引きずられる。結局、商売をしてお金を握っているギャラリストさんや、権威を持っている美術館に承認されるためには、文脈にのってない人は全員はじかれるみたいなところがあると思います。
アーティストは多分、そんな文脈オタクとか美術史オタクが必ずしもいいアーティストになるとは限らないですし、そういう人ばっかりではないんですけど、そういう人たちが美術館やギャラリーと共通言語を話せるみたいな感じで、成功していくみたいなところが事実あるので。
それはやっぱり表の社会のルールだと思うんですよ。評価されるための軸に沿わして生活していく。
美術は本来、それの対抗馬だと私は理解してます。逆に添えないものほどアートだと思っていて、そこからこぼれ落ちてしまうものっていうのがアートの本丸だと思っているので、変だなって思ってるし、アーティストっていうのは元々本来そういう人たちの集まりなのに、非常におりこうさんな人たちとかがいっぱいいるっていう。優秀な人がいるのはいいんですけど、なんか不思議だなと思うところはあります。
何でもグループ化して「何」って名前をつけたがるっていうのは人間のサガなので、そういったことが起きるのだろうし。そうじゃないとあまりにも複雑すぎて説明したり、評論したり何をするのでもラベリングができない。でもまあそもそもラベリングすること自体がアートではないのではと、ちょっと心の中で思いながらも…。
今の日本の美術っていうのは、基本西洋の美術のプラットフォームに日本の美術をどう落とし込むかっていうことなので、ああいうアートフェアとかに行くとそういうものが山ほどあるように思います。
野田
誰に似ているとか?
ミヤケ
そういうのとか、文脈とか、「これはあれやな」みたいな。
リヒターの影響とか、そういうのが山ほど出てくるっていうのがあって。
日本の美術は元々そういうところがすごく柔軟で西洋と違っていて。
西洋はどうしても一神論的な一元論的な良いと悪いが分かれていたりしますけど、私が東洋哲学とか東洋思想のもとに作品を作っているのは、やっぱり日本は八百万の国で、ものすごく分散されていて。正解も無数にあるっていう世界の中で生きていく。それ方が私は物の精度が上がってくると思います。
灰汁をとりすぎると、うま味がなくなるみたいなのがあって。
雑多なものがたくさんある方が、やっぱり太い味になって行くし、そこから、裾野の広いところから上がってくるっていうのは、レベルが高い気がします。
日本でも職人さんとか狭いところを突き進んで深く掘るっていう芸風の人たちもいるんですけど、やっぱり職人芸と実はアートっていうのは似ているようで違うところがあると思っています。
ボクシングとK-1? 西洋と日本の美術の違いって?
ミヤケ
じゃあ、職人芸とアートの違いは何なのかっていうのを一度皆さん考えてもらえると面白いかなと思うんですけど、西洋の美術はボクシングみたいなものです。
バンタン級、フライ級、こう同じジャンルの中でしか戦わないんです。だから重い人と軽い人が戦ったりは絶対しないんです。
だから、工芸とハイアートが戦うというのは基本ないです。工芸は工芸の中、デザインはデザインの中、装飾、美術、建築ってその中で戦うから、試合で言うとボクシングです。それ以外をやったらルール違反、退場と言われる。
それに対して日本はK-1です。どういう戦い方をしようとどういう体型だろうと強いやつが上がっていきますという。「じゃあどっちが強いの?」といったら絶対私はK-1だと思います。
野田
面白いですね(笑)
ミヤケ
やっぱりそのいろんな戦い方、いろんな体験のいろんなメソッドの人が全部戦って一番になるってすごいことですよね。
日本は、例えばお茶碗っていう工芸の実用のものと、城っていう建築っていうのは西洋ではハイアートと一緒で一番上位にものがくるんですけど、それが同等交換されているんです。過去にそれは同等に戦っているっていうことで、「いいものはいいじゃん」って認める力が日本人にはあったと思います。 茶碗って馬鹿にしない、城といわれて偉ぶることがない。
その日本人の美意識や考え方っていうのは、ものすごく誇るべきものだし、やっぱりそういう考えがあるからパックス・ロマーナより長い徳川の平和な時代、日本は世界一長い平和を築いていて、それもあんまり大きく取り沙汰されないのですが。パックス・ロマーナは世界中の人が知っているのに、誰もパックス・徳川を知らないでしょみたいな。なので、それだけ長い平和期間を保っていたのも、やっぱりそういう考え方が根底にあって、いいものはみんな認めて取り込みましょうっていう。
やっぱりそういう意識が美術を太くしてきているっていうのは絶対的にあると思っているんです。
野田
今のお話でお聞きしたいことがあって。
そうなったときにギャラリーというものがあるじゃないですか。ギャラリーが作品を集めて売っていくマーケットがあるから、アーティストは生活ができる。セカンダリー(一度売買された作品を市場に出すこと)があったり、次に買い戻してもらえることもあったり、ある意味安心安全の場がそこで作られてきた。
でも、先ほどのボクシングのような階級制度や、文脈みたいなものもそこでつくられる。そうなってくると、総合格闘技をするんだったら、ギャラリーに入らない方が日本のアートは、この先も広がっていくと思われているということですか?
ミヤケ
本当に作家を理解して、その作家がやりたいことを応援してサポートしてくれるようなギャラリーさんだったら、私も欲しいですって思うし、それはパートナーみたいな結婚みたいなもので、すごく良いものだと思うんです。
多くの結婚が、結婚しただけで幸せになるのではないように、結婚した後が大変だし、続けていくのが大変。
ギャラリーと作家も、多分すごく努力をお互いにしてうまくいってるところもあれば、両方で寄りかかりあおうとして戦いになって、結婚しない方がよかったなって思ってる人たちもいるでしょうし、一概に悪いとか良いとか言えないと思います。中身によるので。
もともと西洋の美術がまず宗教から来ていて、教会を家に持ち込むみたいなそのポータルなんですよ。教会やそこにある宗教画を家庭の中に持ち込む、何というか携帯みたいなもんですよね。そういうものとしての発達の仕方をしていたり、王族とかその王様とか、権力や権威のある人たちが結局、自分たちの思想や姿を定着させるためにできていて、庶民のものでは全くないんです。ルネッサンス期になってやっと人間万歳とか言い出して、その後だいぶ遅くなってから個人の作家という、神とか王様とかから離れたものが出てくるので割とゆっくり進化していると思います。
歴史の長さでみると日本はかたや宗教色が弱いっていうのが元々あるので、割と個人的な感覚とか偏愛するものとかは、まあまあ早い時期から出てきやすいんだと。
野田
浮世絵はポスターみたいな感じで、庶民の生活者の人たちが楽しんでいたんですもんね。
ミヤケ
だから、庶民がアートを嗜む買っている、生活の中に入れていくっていうのが、ものすごく早い時期に始まってます。
かつ、もう一つ言うと、女流文学者って最初は日本なんだそうです。紫式部が最古の女流文学者で。あの時点で西洋でそんな女流の文学者一人もいないらしく、もう清少納言とか紫式部とか、女性であの時代にキャリアを持ってガリガリ働いて自立してて、かつ女流文学が日本を制覇するような、そんな文化ないんですよ。
だから庶民も強いし、女性も強いんです。
西洋で女性が出てくるのはかなり後で、それも相当叩かれながら血を吐く思いで出てくるんですよ。だから日本って女性に対して差別が実は低い文化だと私は思っていて、弱者に対する視線の温かさというか、公平さっていうのを日本は持っていて。
それが、戦後の日本が西洋の教育が入ってきて、お金持ってない人は負け犬、健常者じゃない人は負け犬みたいな。なんかよく分からないしょうもない文化に乗っかってしまったことで、日本が最も誇るべき持ってたものすごい民度の高いものを、文化的にも美術的にもちょっと失っていることが、私はすごく悲しく思いますね。
ヤンキーやギャルの文化は日本文化を掴んでいる?!
ミヤケ
以前の野田さんとの対談でも、西洋の美術教育や日本の教育について少しお話させていただきましたが、日本はもともとは、本歌取りといって、先人がやった素晴らしいものを真似するという文化があります。
これ実はグラフィティ(スプレーやフェルトペンを使って壁面にデザインされた名前などを描くアートスタイル)の人たちがいまだにやっていて。私は横浜出身なんで、グラフィティの結構メッカな場所なんですけど、意外にヤンキーっていうのは日本文化のコアを掴んでいくんですよ。いつも感心します。
なぜかというと、たとえば「超」とか「鬼」とか、あのギャル語は、ヤンキーの文化なんですけど、あれは古文で「鬼」っていうのは、「スーパー」ってイメージで使ってますし。
「悪」とか「悪いね~」とか誉め言葉で言ったりする。ああいうのとかも古語はみんなそうなんですよ。だから「この人たちは古文の達人なの?」って思うんですけど、言語のルーツを本能的に掴んでいくのは彼らだなと。
グラフィティって、描いて、自分よりかっこいいとか、うまいと思ったら上書きしないんですよ。「俺、コイツよりやれる」と思ったら上書きするんです。だからすごい名人はずっと残るのです。そしてリスペクトの対象となる。
「あの人、もう連続10年あそこにあるのはレジェンドだよね」みたいな。日本の本歌取りはそう言う感じなんです。だから宗達の風神雷神はみんなやります。その後、みんなやってみて、やっぱり宗達超えられてないと思うところから自分の道が始まるんだけど。
その一回飲み込んで吸収して、戦って勝っても敗れてもWin-Winなんですよ。それは負けたら別の路線に行くし、勝ったらそれを超えたマスターピースができるし。そういうリスペクトと戦いの中でやってきているので、まあ素晴らしいものが生まれてきているというのがあります。
野田
なるほど、おもしろい話が続いているのですが、そろそろお時間のようです。
ミヤケ
全然用意いただいた年表にいけなくてすみません。
今日、時間の都合で話しきれなかった内容については、手元に参考書籍として用意していたのですが、『移り棲む美術』という書籍が参考になると思います。興味のある方は読んでみてください。
最後に参加された方からご質問!
ご参加者からの質問
「ミヤケさんのアトリエを取材されてみて、野田さんが印象的だったことを伺えたら嬉しいです。」
野田
エピソードというか、ご飯が大変美味しくて。(笑)
もうちゃちゃっと本当に美味しい料理を用意していただいて、本当にありがとうございます。
ミヤケ
スタッフの方がご飯を用意されると聞いていましたが、当日手違いがあって調達できなくなったと聞いて、もう大慌てで冷蔵庫開けて。
だからありもので、恥ずかしかったですが、みなさんに食べていただきました。
野田
でも、あれもドレッシングをベースに手作りでしたし、本当においしかったです。
あと、お部屋に本当にたくさんのアーティストの作品がありました。
それにご自宅でお茶のお稽古のクラスをされているということで、周りにお茶の道具なんかもあって。
お部屋は色々なものがミックスされていて。 中国の食器もあれば日本のものもあって、ヨーロッパの人が作った椅子の上で食べるとか。本当にいろんなミックスカルチャーがたくさんありましたね。
ミヤケ
自分の家ですから、好きなようにさせてもらいますって思います。
もう何の文脈もないですし、スタイルもミッドセンチュリーとかそんなないですし。もうぐちゃぐちゃの家なんですけど、まあ、私がいいなと思った一つの目で選んでいるので、おのずと共通項出てくるんだと思います。
ただ自分がいいなと思ったものが集まっているだけの家です。
野田
でも本当にアートなお部屋のイメージ。バランスよく色んなものがこうミックスされていました。これ以上話すと、また長くなっちゃいますね。
ミヤケさん、楽しいお話をありがとうございました。
ミヤケ
ありがとうございました。(終了)
西洋美術と比較しながら日本美術の歴史を追ったトークセッション。
日本の美の「らしさ」と「魅力」がぐっと実感できるお時間でした。
個展は9月30日(土)まで開催中です。ぜひ本日のお話とともにミヤケマイ氏の作品世界を楽しみにいらしてください。
▼個展のご案内
ART PROJECT with P.G.C.D.
Respect the Artist
ミヤケマイ
「ハクチョウの唄」
期間:2023年7月1日(土)〜9月30日(土)まで
場所:JBIG meets Art gallery
〒107-0062 東京都港区南青山 7-4-2 アトリウム青山
※完全予約制・入場無料
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